前世があるなら、きっとインド人だったのではないかと思うほどインドカレーが好きだ。

4年ぐらい前、家の近くの駅でこじんまりとしたインドカレー屋を見つけた。古いビルの2階にあって、4人がけのテーブルが4、5席しかない小さな店だ。ランチにカレーブッフェを980円でやっていて、いつも小さなテーブルいっぱいに、3、4種類のカレーとサラダ、揚げ物、ラッシーやチャイが用意されている。味はいたってシンプルだが、そんな飾り気のなさが妙に落ちつかせてくれて、その店に通うようになった。

テーブルにつくといつもほっとさせてくれる笑顔の店員さんが、
「ナンとライスどちらにしますか」と聞いてくる。「ナン」と答えると数分後熱々できたての大きなナンが運ばれてきて、バターの匂いがテーブルでプーンと漂う。

薄暗い店内では、いつも小さなテレビでインド映画のビデオが上映されていて、映画が終わると店員さんが巻き戻しに来てまた再生する。店は小さいが店員さんの存在はまったく気にならない。店員さんは時々、ブッフェテーブルが汚れていないかチェックしたり、客が帰った後片付けをして、すっとキッチンの中に消えてしまう。

インドカレーのブッフェというと、いろんな種類のカレーが食いなさいと言わんばかりのものすごい量で、テーブルの上にどーんと用意されていて、水でかさを増やしただけなのではと思うほど、退屈な味なことがたまにある。そして、多勢の人でごった返した店内は騒々しくて、落ちつかない。

でもその店は、多い時でも客は3組程度だった。仲間でわいわい食事をするというよりも、二人組みが時々ひっそりと会話しながら食べている雰囲気だ。だから、店内はインド映画から流れてくる音楽で満たされている。太陽の光を集めた大きな窓は、薄暗い店内で真っ白になっていて、よく近づいてみないと外の景色がみえない。どこでもない世界。

残念ながらその店は2年前ぐらいにつぶれてしまった。外の世界から切り離されてしまったようなあの店の雰囲気が懐かしい。

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